“人類館”のウチナーグチを訳す

人類館CD台本 対訳(津嘉山正種氏による)

“おきなわおーでぃおぶっく”の“人類館”制作にあたっては、その定本を、青年座の“津嘉山正種ひとり語り「人類館」”上演台本を定本としています。 CDのdisk2はその冒頭から、ウチナーグチのみ会話が続き、ウチナーグチを知らない方にとっては、理解不可能です。 このヤマトグチの対訳をCDのライナーノーツに掲載しなかったのは、作者である知念正真氏の「分からないことに意味がある」という思いを尊重してのことでした。 しかし、ご購入してくださった方に何度も聴いて頂きたい、そのためには、ヤマトグチの対訳はやはり必要であろうと考え、その旨を知念正真氏にお伝えしたところ、 このホームページにその対訳をアップすることを、快く承諾してくださいました。
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(※Blogに「知念正真氏のメッセージを添えて」と書きました。しかし、知念さんの思いは深く、なかなか筆が進まないとのことで、 先に対訳のアップをお許しくださいました。)

訳文については、すでに朗読した津嘉山正種氏による訳があり、それを知念氏にお送りしてチェックをして頂いておりました。 やはり直訳では伝わらないニュアンスがあり、そのことについて、知念氏はしばらくお悩みのようでしたが、 基本的にはこの訳で問題ないので、「直訳では伝わらないニュアンスがある」という但し書きをつけた上で掲載OKとのご回答を頂き、 この度、いよいよ掲載となりました。
津嘉山正種氏はじめ、青年座関係者の方々にも、深く感謝いたします。

また、上演台本は漢字交じりで書かれており、これをウチナーグチで読むことは、やはりウチナーグチを知らない者にとっては不可能です。 従って、津嘉山正種氏が実際に語っている音との対訳を、近日中にアップする予定です。お楽しみに!
カマー? カマー?
調教師カマ?……鎌なんか、無い。 カマ?・・・・・鎌なんか、無い。
カマーやあらに?
汝や、カマーじゃないね?
カマーじゃないか?
お前はカマーじゃないか
調教師何だ? 何だ?
やんて、カマーやんてー。
カマー、汝や我わからんなー?
我どぅやしが、太良よ、
この顔良く見て、太良さあ。
そうだよ、カマーだろ
カマー、俺、分らんか?
俺だよ、太良だよ。
この顔よく見て、太良だぞ。
あい、本当にカマーさあ。
我ねー、ウシーどぅやんどぉ、
東門ぬウシー。
あれ、本当にカマーだ。
私はウシーなのよ、
東門のウシー。
調教師アイエー、
ウシーお婆るやんなあ…!
あんし、うんじょう……
太良ー兄ィ!
なんだ、
ウシーお婆なのか!
そして貴男は
太良兄さん!
男・女カマー小! カマー!
アキヨー!カマー小よ、
カマー小!
生ちちょーてーさやー!
山原んかい逃ぎいる道しがら、
親戚んちゃーや居らに、
兄弟んちゃー有らにんち、
倒りとぉるちゅんちゃーん、
けーみーみぃしる歩っちちゃる、
アイエーナー!
汝や、生ちちょーてーさやー、
カマー小。
我達やなあ、
戦さに打ち喰わぁってい、
親兄妹んむる
失なてぃーねーらん。
後生行じゃーに、
行逢りわるやるんでぃる
うむとーたる。
くぬ世長れえてぃ、
汝、行逢ぃる日ぃん有てーさやー、
カマー小!
何て事、カマーよ、
カマーよ、
生きていたんだね!
北部の田舎に逃げる道中、
親戚達はいないか、
兄弟達じゃなかろうかと
倒れている人達を
見ながら歩いて来たのよ、
何て事!
お前は生きていたんだね、
カマー。
私たちは
もう戦に食われて
親兄妹皆
失ってしまった。
あの世へ行って、
会うしかないと
思っていたのよ。
この世生きていて、
お前に逢う日もあったんだね、
カマー!
調教師泣ちんそーらんけーなー、
ウシーお婆。かんねーる、
ゆむ戦さに行ち当てぃ、
顔までぃ打ち変わてぃ、
哀りぬだんだんしみそーちぇーさやー、
お婆。
泣かないで下さい、
ウシーお婆。この様な
馬鹿な戦に行き当たり、
顔まで変わってしまって
大変な哀れをなさったんですね、
お婆。
汝やなー新大和小けえ成てぃ、
見い知ららん成とうるむんなー。
なまねー学校ぬ先生ぬ如るある。
お前は内地人みたいになって
見違えるようだよ。
今じゃ学校の先生のようだ。
調教師やしが、オバー、
うんじゅなーや、我達ウサ小とぅ、
一緒やあいびらんたんな?
ウサ小や、ちゃーさびたが?
だけど、お婆、
貴方はうちのウサと
一緒ではなかったのですか?
ウサは、どうしました?
……。 ……。
調教師……ウシーお婆! …ウシーお婆!
……。 ……。
調教師ヤッチー! お兄さん!
……。 ……。
カマーよ。泣ちんさん如、
くぬお婆が言いし、
良う聞ちようやー。
汝、妻ぬウサ小ややあ……、
山原かい逃ぎーる道中、
くぬ世失なたんどーやー、カマー
カマーよ、泣くことをせずに
このお婆の言う事を
良く聞きなさい。
お前の妻のウサはね、
北部に逃げる道中、
この世失ったんだよ、カマー。
調教師ウサ小がな、我達ウサ小がなあ! ウサが、私のウサが!
艦砲射撃んでぃる言いみ、
ドーンドーンしよう。
うぬ、艦砲ぬ雨に追わっーてぃよう、
壕ぬ中んかい入らんでぃすさやあ…
あんしいねぇ今度お、
大和ぬ兵隊に追わぁってぃよう。
民間人は出て行け!んち、
うふあびいしよう…!
アキヨー!何ぬ罰冠んてぃ
生りたるむんやがんでぃる思たる。
やしが、ウサ小ややぁ、
胴ぬ哀りん哀りんでぇ思ぁん。
とぅーち汝事びけーじ、
心配るそーたんどーやあ…
カマー小。
艦砲射撃と言うのかい、
ドーーンドーンしてね。
その艦砲の雨に追われて
壕の中に入ろうとするだろう?
そしたら今度は
大和の兵隊に追われてね、
民間人は出て行けって
大声を出してね…!
何て事だ!何の罰を受けて
生まれて来たのかと思ったよ。
だけど、ウサはね、
自分の哀れを哀れとも思わず
いつでもお前の事ばかり
心配していたんだよ、
カマー。
調教師あいえー、ウサ小!あいえーよ!
汝や、情え無えらん。
我一人打棄ゃん投ぎてぃ、
死じゃんでぃなあウサ小!
なんて事、ウサ、ウサ!
お前は情がない。
私一人残して
死んだというのか、ウサ!
カマー…イェー、カマーよう、
何日かあ、汝行逢ゃて、
話する際ん有いがすらんでぃる、
思ぅとーたる、
此所うてぃ汝行逢たしん、
ウサ小が引合わせがやら、
わからんどぅやー。
とう、もう泣くな・・・
泣きなさんな・・・。
やしがお婆よ、
何時までぃん話ぶしゃああしが、
あにんならんむん、
我達やなー通らな。
カマー…ねえ、カマー
何時かはお前に会って
話する事もあるかなと
思っていたんだ。
ここでお前に会えたのも
ウサの引き合わせかも、
わからん。
ほら、もう泣くな、
泣きなさんな…
だけどお婆、
何時までも話したくはあるけど
そうも行かない、
我々はもう行こう
いい?あんやさやー。
此所うてぃ、長話し、
大和ぬ兵隊んでー
見当らりーねー一大事。
カマー、逃ぎーるすんどーやあ……。
逃げなさいよ。
我達やなあ行かいい。
そう?そうね。
ここで長話して、
大和の兵隊にでも
見とがめられたら一大事。
カマー、逃げるのよ。
逃げなさいね。
我々はもう、行くね。
調教師お婆、兄。知らち呉んそーち、
にふぇーやいびたんどーなー。
お婆、兄さん、知らせてくれて
ありがとうございました。
とうあんしぇえ、お婆…りっか・・・ それじゃ、お婆、さあ・・・
調教師兄!あんし、うんじゅなあや、
何処んかい参んしぇーが?
兄さん!それで貴男達は
どこに行くのですか?
……。 ……。
調教師うー?何処んかい、
参んしぇーがなー、お婆。
ねえ、どこに行くのです、
お婆。
……。 ……。
調教師我んにん、まじゅーん、
添うてぃ参んそーれー。
私も一緒に、
連れてって下さい。
カマーよ。
添うてぃ行かりーる所んかいや、
有らんどぅあんでー。
カマー…
連れて行ける所では
ないんだよ。
調教師添うてぃ行かりーる所ぉ、有らん? 連れて行ける所じゃない?
いい。 ええ。
調教師ぬうが、何処かい、参んしぇーが? 何です、どこに行くのです?
唐旅かい。 唐への旅へ。
調教師唐旅? 唐への、旅?
我達やよーカマー。
親兄弟、一人ちょーん居らん。
むる戦さに持っち行かりやーに、
居らんなとーん。
くぬ先、長れーてぃ居てぃん、
ゆちらー無ぇらんむんぬ、
なあ後生行じ、
親ふぁーふじ、行逢てぃ来ぅる
肝えーどぅやんどーやー。
我々はね カマー。
親兄弟一人も居ない。
皆戦争で死んでしまって
居なくなった。
この先、長生きしても
何の価値もないし、
あの世へ行って、
ご先祖さまに会ってくる
会って来るつもりなのよ。
調教師後生んかい……。 あの世へ…
……先ならいー。 …先に行くね。
調教師兄!お婆!
待っちょうちみそーれーなー。
お婆、我んにん、
添うてぃ参んそーれーなー。
兄さん、お婆、
待ってください。
お婆、私も
連れてってください。
汝―ん、まじゅーん、行ちゅみ?
ウサ小、前んかい?
お前も一緒に行くか?
ウサの側に?
調教師うう。 はい。
とうとう、あんしぇー、
まじゅーんならやー。
やしがカマー。後生んかい、
行ちぶさんでぃ思てぃん、
鉄砲一ちんちょうん無ぇらん
何処うてぃ、鎌んでーん、
探てぃ来うんねーならんむんぬ、
とう通れー。
そうかい、
じゃ一緒に行こうか。
だけどカマー、あの世に
行きたいとは思っても
鉄砲一つ無いんだ。
どこかで鎌でも
探して来なければならないから…
さあ、行こう。
調教師待ちみそーれー、お婆。
我が此処んかい、うね!
待ってください、お婆。
私がここに、ほら!
ぬーやがー、うれー? 何だい、これは?
調教師テリューダンよーなー! 手りゅう弾ですよ!
テリューダン! 手りゅう弾!
調教師うう。 はい。
とうとう、良い物ぬ有てーさ。
此りが有れー、
何ぬ苦ちさん無ぇらん。
三人まじゅうん、揃てぃ、
後生んかい行かりーさ。とう。
そうかい、良い物があったね。
これがあれば、
何も苦しまずに
三人一緒に揃って
あの世へ行けるさ、さあ。
うーとぅとう、うーとぅとう。
タンメーたい、ウンメーたい、
三人、まじゅーん、
なま、うんじゅなあ前んかぃ
行ちゃびーぐとぅ
待っちょうてぃ、きみそうりよう。
三人、まじゅーん、やいびーぐどぅ
待っちょうてぃきみそうりょう・・・
とう、太良……うりさあに……
うーとぅとぅ、うーとぅとぅ、
おじいさん、おばあさん、
三人一緒に、
今、皆さんの前に
行きますから
待ってて下さいね。
三人一緒ですからね、
待っててくださいよ。
さあ、太良、これで…
……とう、あんしぇ!
カマー! お婆!、
覚悟お、ゆたさみ?
恨みてーしまんどーやー、カマー。
我達御元祖ぬ、
見守てぃ呉みせーる筈。
迷いんさん如、我、後から
追うてぃ来うよーやー。
とう、あんしぇ!
行ちゅんどう…ウリ!
よし、それじゃ
カマー、お婆、
覚悟はいいかい?
恨んじゃいけないよ、カマー。
我々の御先祖が、
見守って下さる筈
迷う事なく、私の後から
追ってきなさいよ。
さあ、それじゃ!
行くぞ…ほれ!